君恋1-1

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 俺は椅子に座ったまま、呆然と閉まった扉を見つめる。 (……嫌われた? いや、でも……)  それとは違う気がした。 (あの人でも取り乱す事あるんだな……) 「いや、そりゃあるだろうけど! ――すげぇ吃驚した」  独り言ちながら、漸く払われた手を庇うように押さえた。 「からかったつもりはないんだけど……でも、あとで謝っとくか」  パソコンをシャットダウンして、俺はカフェ用のエプロンを腰に巻き付けて部屋の電気を消した。  厨房に入ってまずは木村さんに挨拶を済ませ、テラスで動き回っている小笠原に声を掛けた。 「お疲れさん」 「あ、てんちょー! 遅いっスよ、もー!」  メニューブックを持って駆け寄って来た小笠原。  相当忙しかったのか息が弾んでいる。 「遅いって……、俺はP帯だぞ」 「それは知ってるけど! 今日はめっちゃ忙しいんで手伝ってほしかったんスよ!」  言われてみれば、昨日よりも客の入りがいいようだ。
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