31人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの太い木は、御神木と言って。神の宿る木でな。太い枝と揺らす葉の中に、隠れておいでなさる。アンテナのような角を立てて、大きな耳で、わしらの心の声を聞いていなさる。そして空の変化を感じながら、川面で水の推移を制御して、わしらを水害から守っておいでなさる」
「おぉーっ、有り難うございます!」
隣りの誠実は、
「子どもって、無知だから。質問がストレートで単純。実に面白いなぁ」
小声で言って、笑ってる。
すると、誠実のスマホがバイブルした。
慌てて、
「ごめん、会社から。何だろうな。ちょっと、向こうで話してくる」
「うん」
誠実は神社の隅の方へと移動した。
最近、よく会社からの電話。
休日なのに。
ゆっくり出来ないなんて、気の毒に。
きっと今、忙しいんだよね。
しばらくして、お婆さんは拍手と共に退場して、社の脇の集会所に入って行った。
誠実も戻り、私たちはも石段を下って帰って行った。
今日も、穏やかで静かな休日だったな。
私はとても満足だったけど。
誠実はどうだったのかなぁ。
私のお気に入りの、「心の宿り場所」。
誠実は気に入ってくれたかしら。
どうしても、ここは誠実には教えたかったから。
一生を共に送ってくれる人には。
大切な場所を、教えたかったから。
最初のコメントを投稿しよう!