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今日は帰ろう。
そうやって、私は家に帰る。
いや、むしろ。
龍神様が、わざと雨を降らして、私の心を冷まして、早く帰りなさい
そうやって向けているように思えてならない。
7月の終わり頃。
2週間も先のデートを断られて、私は頭にきて、誠実には告げないで、彼の会社へと出掛けた。
7時から待って、ようやく9時過ぎに誠実が会社のビルから出て来た。
何よ!
残業だなんて、嘘。
きちんと定時で上がってるじゃない。
駆け寄ろうとした瞬間っ…。
「誠実!」
「おぉ、堀村ぁ。何、おまえも帰り?」
髪の長い、足の綺麗なミニスカートの、見るからにキャリアウーマンの女性が現れた。
「どぉ、今夜もいっぱい引っ掛けて帰らない?」
「いいねぇ。ってかさぁ、お洒落なバー見つけちゃって。そこ行くべ?」
「行くべ、行くべ」
私はビルの隙間に、ひっそりと隠れて震えていた。
夏なのに、冷や汗。
どうして、自分が隠れてしまったのかさへも、訳が分からなくなってしまった。
誠実とその女は、私の横を知らずに通り越して行った。
ようやく、歩道に出ると。
「俺のお気に入りの場所。堀村には、どうしても教えておきたくてさぁ」
「本当にぃ?じゃあ私も次回、教えちゃう」
「また俺たちだけの、秘密の場所が増えますなぁ」
「誠実ってば、鼻の下伸びてるわよ」
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