1 心の宿り場所

7/10
前へ
/41ページ
次へ
「昔、昔、私がまだ生まれる前。私のお爺さんとお婆さんには、私の母と、母の兄がいました。私の母は、兄と呼ばれる子どもを知りません。母が生まれた時には、もう兄という人は死んでしまっていたのですから」 子どもたちは、その言葉に急に静かになる。 「ちょうど今、あなたたちが過ごす幼稚園がある場所には、お爺さんとお婆さんの畑が有って、この神社の下にお爺さんとお婆さんのお家が有りました。ある時、大雨が何日も何日も降り続き、目の前に有る大きな川の水は、勢いよく溢れ出してしまい、大洪水で、まるで深いプールのようになってしまいました」 そして、2度目のどよめき。 「みなさんの中で泳げる人は何人いますか?泳げる子は手を上げてごらん?」 大半、ほとんどが手が上がる訳もない。 もちろん、カナズチな私は当然、手は上げられない。 誠実は高々と手を上げていて、ちょっぴり私は笑ってしまった。 「みなさんが泳げないと言う事は、その頃のみなさんと同じくらいの子どもたちも泳げる訳もなく、その大洪水で多くの小さな子どもたちが流され、死にました」 また、子どもたちは怖くなって静かになる。 「そして、私のお爺さんとお婆さんの子ども、私の母の兄も、流されて死にました。他の子どもの死体は見つかっても、可哀想な事に、母の兄は見つからない。何年経っても、見つからない。それは今でも…」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加