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ダメだ…、やっぱり涙が溜まり始める。
引率の若い先生は、もうとっくに泣いていた。
「ガレキやザンガイは綺麗に片付けられて、道や川沿いは補正され、いつしかそんな悲劇の洪水のあった事など、みんなが記憶から忘れていった。しかし、子どもを亡くしたお爺さんとお婆さんは、役場や警察に、何度も探して下さいと頼んだが…」
お婆さんは頭を横に振る。
「見兼ねた町の、同じく子を亡くした親たちが、ここに水の神様を奉ろうと、お爺さんとお婆さんに話を持ち掛け、町中の者たちで、お金を出し有って建てたのが、この神社です」
後ろに佇む御神木が、また柔らかい風に乗って、葉をサワサワと鳴らした。
「後ろに有る大きな木に、水の神様、龍神様を宿らせ、お祀りして、もうこの地に一切の水害のないようにと、清いたまえ、払いたまえと、町の者一体となって、お祈りを捧げ奉りました」
園児たちの中でも、女の子は、あの頃の私のようにグッタリと泣いていた。
「そして、お爺さんとお婆さんには、女の子が生まれて、それが私の母。兄の生まれ変わりだと大切に育てられ、宿命として母はこの神社を守り続けていく事に繋がりました。そして、私、私の娘、そして…」
お婆さんは急に最後の言葉を濁し、うつむいていた。
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