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休み時間になれば、みんな僕を囲んで話しかけてくれた。そうでない人も、誰かと一緒に楽しげに話をしていた。
みんなにされる質問に答えながら、僕を囲む人混みの隙間にのぞいた光景に、目が釘付けになった。
僕より前の方の、右寄りの席。うなじが完全に隠れるほどの後ろ髪の少年が、教室で一人、座って本を読んでいた。僕は読書が嫌いな質で、漫画の方が好きだし、人と話すほうがもっと好きだ。だからその少年が、僕には少し異様に映った。
「ねえ、あの子は?あの子も一緒に話そうよ」
少年を指差して言うと、みんなは眉にシワを寄せ、あきらめたような笑みを浮かべた。
「あいつはだめだめ。人と話したがらねぇの」
「そうなの?」
僕はもう一度、ぽつんと座る少年の後ろ姿を見た。
そんなこと言われると、ますます話したくなるなぁ。そう思った。
だから放課後、僕は少年に話しかけた。
「ねぇ」
帰りのホームルームが終わった騒がしい教室で、僕と少年は向き合っていた。
「名前なんて言うの?帰る準備してるけど、部活とかは入ってないの?」
僕が聞くと、少年は怪訝そうに僕を見て、すぐにリュックを背負って教室から出ていこうとする。僕もそのあとを追った。
「ねえ、何でなにも言ってくれないの?せっかく一緒のクラスなんだし、仲良くしようよ」
「………」
やっぱり少年は何も言わない。黙ってずんずん歩くだけだ。
それでも話がしたくて、僕は構わずに話しかける。
「僕の名前は覚えてる?高瀬ハル!ハルって呼んでほしいな。ねえ君の名前は?」
「……あのさ」
そこで、やっと少年が口を開いた。僕は感動してしまって、目を輝かせて少年を見た。
「何で…ついてくるんだよ。…俺のことなんか放っておけばいいだろ」
言っていることがよくわからなくて、僕は首を傾げて少年を見る。
「話がしたいんだ。仕方が無いでしょ?」
そう言うと、少年は心底迷惑そうな顔をしてまた背を向けた。
僕は少年の隣を歩く。少し変わったのは、少年が急ぎ足ではなくなったことだ。
「ねえ、名前なんて言うの?」
本日三度目となるこの質問を、僕は繰り返した。
「………カイト」
成立した会話が嬉しくて、僕は何度もカイトを呼んだ。またカイトは迷惑そうな顔をしたが、急ぎ足になることは無かった。
僕は確信していた。他の誰でもない、カイトと僕は親友になるのだと。
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