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世界は現実や絶望で溢れている。期待などとうに消え失せ、輝きの無い未来に向かって一分一秒を消費していくだけだ。
俺のくだらない日常に、奴は卒然と現れた。すっかり誰も寄らなくなった俺の隣に、奴は張り付くようになった。どれだけ無視を繰り返しても、奴は俺に話しかけるのをやめない。逃げるのも疲れて、俺は黙って過ごすことにした。
「カイトくん、さっきの授業さあ、問三って結局どういうことだったのかな?わかる?」
つい先程終わった現国の授業の話を持ち出してきた奴のために、机の中に押し込んだプリントと教科書をもう一度取り出すことになった。
「…いいか、ここでこの人はこう思ってるだろ?だからその繋がりでこういう思考になって…」
「ふんふん」
こくこくとうなずいて、奴は俺の指差す文章の箇所を見ていく。プリントの問三を見せて、四つある選択肢の適当なものを教えた。
「だから正解は、一」
「そっかあ!」
満足そうな顔をして、奴は手を叩いた。
終わった終わったと教科書を閉じて、再び机の中に仕舞う。
「カイトくん教えるの上手いねぇ。先生に聞くよりいいかも」
「…やめろ。そうしょっちゅう来られちゃ困る」
想像しただけでも胃が痛みそうで、走って逃げたくなった。
「勉強得意なの?」
奴は机に顎をつけて、俺を見上げながら奴は尋ねる。無視しようかと思ったが、頭がいいと変な勘違いをされては困るため、仕方無く話すことにした。
「別に、国語系だけ昔から得意なだけで…。他は全然だめだし…」
「そうなんだあ」
問題を教える過程からたくさん喋っていたので、すっかり疲れてしまっていた。もう話したくないと思い、ここからは黙りこむことを決めた。
それからも、延々と喋り続ける奴に、俺は曖昧に生返事をするだけだった。
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