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体育は苦手だ。運動は上手い方ではないし、根本的に動くことが嫌いなのだ。教師の目を盗んでは、ひたすらサボっていた。
今日の種目は跳び箱だ。こういう個人競技はありがたい。サボるのが非常に楽だ。さっそく壁に寄りかかって、床に座り込んだ。
そんなとき、奴は俺の安らぎを奪ってきた。
「あれ、カイトくんやらないの?」
やりません。
ここ数日でわかったのは、奴は運動好きでとても得意だということだ。一緒にやろうと引き込まれかねない。それを想像しただけで溜め息が出てきそうだ。
「…体育は嫌いなんだ」
「何で?数学とかより良くない?」
「いや…、良くないよ…」
首をかしげる奴は、無垢な顔で爆弾を投下してきた。
「もしかして、運動苦手?」
「っ!」
「あ、図星ー」
けらけらと笑う奴に見られないように顔をうつむかせたのは、顔が赤面していたからだ。自分の出来ないものを知られるのは、どうにも恥ずかしくてならない。
俺がそんな抵抗をしていると、奴は俺に手を差し出してきた。
「教えようか。出来たら楽しいよ」
奴はそう言って笑う。
「…いや、俺はいい…」
「いいからいいから!さっきのお礼!」
さっきというのは、きっと現国の問題を教えたことだろう。
全くやる気の無かった俺の声は見事に聞き届けられずに、奴は俺の手を捕まえて引っ張った。思ったより強い力に、抵抗する余地もなく跳び箱の前に出されることになった。
女子の群がる一番低いところに連れていかれなかったのは、不幸中の幸いだったのだが。
「ええと、まず一回飛んでみようか。僕は横から見てるね」
そう言って俺を残し、奴は跳び箱の横まで走って行ってしまう。途端に心細くなったのは、奴には言わない。
「いいよー!」とでかい声で奴が言うもんだから、周りの生徒の視線が少し集まってしまって、怒りそうになってしまった。
「ほら早く!」
「…っさいな…」
奴には聞こえない声で悪態をつく。にこにこする奴はただ俺が跳ぶのを待っていた。さっさと終わらせようと、とりあえず跳ぶことにした。
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