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しかし奴は、すぐにへらりとだらしない笑顔に戻った。気のせいだったのだろうか。今はもう強い視線は無い。
俺はまた順番待ちをしながら、奴を眺めた。やはり面倒だったが、奴がうるさいので反抗するのを諦めた。
俺の番になる。走り出そうとす
ると、奴は跳び箱の横から立ち上がり、跳び箱の向こう側に消えた。いったい何をしているんだか。
俺は助走をつけ、三度目のジャンプをした。飛び上がった時に見たのは、前におかれたマットで、しゃがんで手を伸ばす奴の姿だった。
―――落ちても、僕が受け止めてあげる
マジかよ、アホじゃね。
その気持ちが、俺の恐怖を軽減させたのだろうか。
跳び箱を飛び越え、勢い余った俺は、そのまま奴に飛び込むはめになった。思ったよりしっかりした腕が俺を抱き締めて、痛い思いはせずにすんだ。
「やったあ!飛べたあ!」
俺は跳べたことにがらにもなく感動していたが、奴の声が耳元で響いたので我に返り、俺は慌てて奴の手を引き剥がした。
起き上がった俺につられるように、奴も起き上がって笑いかけてくる。
「やったね!跳べたね!」
「…はいはい、跳べました」
本当は嬉しいのを隠し、俺は立ち上がってまた順番待ちをするために歩く。隣では、奴が俺を追いかけてきていた。
また並ぼうと思ったのは、奴が隣で騒ぐのを面倒に思ったからだ。
「どう?楽しい?跳び箱!」
「…楽しくないです」
ちょっと自信が出たのも、俺だけの秘密だ。
「あ、また僕、あっちで待ってようか?」
「いらねえし…」
結局奴は、また跳び箱の横まで歩いて行き、俺が跳ぶのを心底楽しそうに待っていた。
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