結婚式。そして………

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『ブーケ、奪い取ったか?』 相変わらずコール1回で出た玲央さん。 この人はいつも第一声がオカシイ。 でも今日はそれになんだか救われた。 そのブーケも、あの肉食女子のうちの一人が持って行きましたよ………。 「玲央さん、今、大丈夫?」 “診察中でも、手術中でも出てやる”と言い切った男に、一応聞いておく。 『今夜は当直』 「じゃあ、かけ直………」 『今はいい』 ………ですか。 『結婚式どうだった?』 「うん………」 すごく、綺麗だったよ。 そう言いたかったのに、鼻の奥がツンと痛くなり、声が出なかった。 『なぁ………なんかあった?』 「うん………」 『うんじゃ、分からねぇよ』 「………うん。  智志さんと、お別れ、した」 なんとか紡いだ言葉は、想像以上に自分の心に刃を突き立てた。 『は!?』 「と、智志さんがっ………もう、婚約者のフリは終了するって………。  で、もう友達にもなれないって…………。  ふっ、うぅ、う…………」 ついに嗚咽が零れ出す。 むせび泣く私に、玲央さんは何も言わずにいてくれる。 「だから………うぅっ…………うっ………だ、から………と、智志さんはっ………  うぅ………玲央さんに、お返しします………」 嗚咽交じりの私に、呆れたような深く長い溜息が電話越しに聞こえた。 玲央さんは私の泣き声が落ち着いた頃、静かに話し始めた。 『お前さ、そんなに泣くってことは、智志のこと好きなわけ?』 突然の質問に思わず息を飲む。 この人だって、智志さんのこと好きなのに………。 でも、誤魔化すのも失礼だ。 「うん…………今さっき、自覚した」 『今さっきって………』 呆れたように玲央さんが呟く。
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