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店を出ると、智志さんは足を止め、私に頭を下げた。
「母が………すみませんでした」
いきなり謝罪されると思っていなかった私は驚いて智志さんを見上げる。
「あ、いえ………こちらこそ、母がすみません……」
突然の呼び出し。
珍しい買い物のお誘い。
身の丈に合わないブランド物の服。
有名パーラーで遭遇した、母親と息子。
もともと計画的なお見合いだったというのは明白で、被害を被ったのはお互い様だ。
うるさい母親達とは別れたし、このまま帰ってゆっくりしよう。
一週間撮りだめていたドラマも見なきゃ……。
銀座だし、あそこのチョコでも買って帰るかなぁ。
早く帰ってのんびりしよっと。
そう思っていたところで、智志さんが振り返った。
「あの………せっかくなので、昼飯でもどうですか?」
意外な言葉に、帰ろうとして動かした足を止める。
すらりと長身の美形にそう言われ、なんだか断るのももったいない気がした。
それに………ゲイの人と話をしてみるのも悪くないかな。
私の未知の世界に住む目の前の男性に、そう言った意味で興味を持った。
「そうですね。近くに行ってみたいお店があるので、そちらでもいいですか?」
私がそう言うと、智志さんは嬉しそうに微笑んだように見えた。
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