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「えっちゃんとはね、中学と高校が一緒だったの」
帰りの電車の中で、母と悦子さんの関係を聞くとそう返ってきた。
「えっちゃんは進学組で東京の大学に、お母さんは就職組で神奈川に出てね。
この前、高校の同窓会で久しぶりにえっちゃんと会ったの」
で、お互い独身の子供を抱えていて、この際だから二人をくっつけよう!みたいな流れになったんだな………と、聞かなくても分かった。
「で、智志さん、どうだった?」
母が意味ありげな視線を向ける。
「どうって………いい人だったよ。
でも、悦子さんが『智志さんはゲイだ』って言ってたじゃない。
このお見合いはうまくいかないでしょ」
「あぁ、それはお母さんもさっき聞いてビックリしたわ!
でも、大学の時は彼女もいたそうよ?」
とは言え、今は女性には興味なさそうだったな。
女性は苦手みたいな感じだったし。
とすると、やっぱり私は智志さんの対象外だ。
「でも、かな~り男前ね!!お母さん、あんな息子がいたら嬉しいわぁ」
母の言わんとすることは分かっている。
でも、智志さんはゲイなんだし、私と結婚する気はないだろう。
ん??
ちょっと待てよ。
智志さんはゲイ
↓
私(女性)と結婚する気はない
↓
このお見合いは智志さんから断られる
↓
当然ながら破談
うん、うん。
私、いいこと思いついた。
「じゃあ、こちらはお付き合いの意志があるってえっちゃんに伝えてもいい?」
母はキラキラと目を輝かせ、私の返事を待っている。
そして私は大きく頷いた。
「うん、そうして」
私は頷きながらも頭の中では違う計算をしていた。
絶対に智志さんは私の申し出を受け入れない。
向こうからはお断りがくるんだから、そうなったら
「私が気に入っても先方が気に入ることはないでしょう」
と今回の件を引き合いにして、今後のお見合いも断ることができる。
むしろ、母の方が私にお見合いを勧めづらくなる!!
うん、なんて完璧な案でしょう!!
駅で母と別れると、清々しい気持ちで自分の部屋で過ごした。
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