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週が明けて、月曜日。
領収書の束を一枚ずつ眺めていると、営業部の男の子が現れた。
「すみません、T物産の入金状況を確認できますか?」
「………。そのくらいだったら内線ください」
「内線じゃ、千咲さんに会えないんで」
照れもせずさらりとそんなことを言うのは、3つ年下の大滝要(オオタキカナメ)君だ。
大滝君は可愛い系の男の子。
茶色く染めた短めの髪、黒目がちの大きな二重の瞳、唇はぽてっとしていて、桜なんかは「キスしたくなる唇よね」なんて言ってる。
私はジロリと大滝君を睨みつけてから、奥のパソコンに移動する。
あらかじめ経理部内だけに通知されているパスワードを打ち込み、T物産の入金確認をした。
「金曜日にきちんと入金されてます」
だいたい、T物産が入金日を忘れたり、支払しないことなんてありえないのに、この大滝君はことあるごとに自分の担当先の入金確認をしてくる。
お局に対する嫌がらせか………。
「ありがとうございます。
それで、千咲さん今夜暇ですか?」
「今夜は忙しいですね」
「またですかぁ。たまには付き合ってくださいよ」
「本当に忙しいので、では」
「千咲さぁん」
大滝君とのやり取りは週1~2回くらいある。
でも知ってるんだ。
大滝君の目的は私じゃない。
大滝君は自分と同期の森絢奈(モリアヤナ)ちゃんが好きなんだって。
私の斜め前の席に座る、すらっとした美人の後輩に目を向ける。
桜からは散々『千咲は恋愛方面は鈍い』って言われてるけど、私の洞察力だって甘く見ないでねーって感じ。
でも、絢奈ちゃんは大滝君は眼中なしって気がする。
頑張れ、大滝君!
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