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───ピンポーン…………
まだ肌寒さの残る3月初旬。
一人暮らしの部屋のインターホンの音で、私──藤浪千咲(フジナミチサキ)──は目を覚ました。
時刻は………午前9時。
今日は休日の土曜日。
こんな時間に一体誰が………。
起きぬけの頭をワシャワシャとかきむしると、トボトボと玄関へ向かう。
ドアスコープから見えたのは───思った通り、母親だった。
「あら、千咲、まだ寝てたの?」
久しぶりに会った母親(美津子・ミツコ)は、私のだらしない格好を一瞥する。
とはいえ、その母親はいつもとは見慣れないお洒落な格好をしていた。
「………どうしたの?その格好」
光沢のある茶色のジャケットの襟を掴むと、少し太めの母はくるりと同色のスカートの裾を翻した。
「似合う?」
ドヤ顔でそう言われ、「う、うん」と頷いてあげた。
「じゃなくて、なんでそんなにお洒落してるの?」
今一番の疑問を母に投げつけると、母は一瞬考えた風で
「一緒に買い物に行こうと思って。銀座に行きましょう♪」
「銀座?」
銀座と言う地名を聞いて、まぁ少し納得した。
ああいう場所に行くなら、母のくらいの年代の人ならこういった格好も妥当だろう。
それならそうと、一言電話でもメールでもくれればいいのに。
はぁと溜息を吐いた。
でもまぁ───。
どうせ暇なだけの休日だ。
母の買い物に付き合うなんてかなり久しぶりだし、たまには親孝行もいいだろう。
私は母を待たせ、出かける準備を始めた。
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