突然のお見合い

2/16
前へ
/321ページ
次へ
───ピンポーン………… まだ肌寒さの残る3月初旬。 一人暮らしの部屋のインターホンの音で、私──藤浪千咲(フジナミチサキ)──は目を覚ました。 時刻は………午前9時。 今日は休日の土曜日。 こんな時間に一体誰が………。 起きぬけの頭をワシャワシャとかきむしると、トボトボと玄関へ向かう。 ドアスコープから見えたのは───思った通り、母親だった。 「あら、千咲、まだ寝てたの?」 久しぶりに会った母親(美津子・ミツコ)は、私のだらしない格好を一瞥する。 とはいえ、その母親はいつもとは見慣れないお洒落な格好をしていた。 「………どうしたの?その格好」 光沢のある茶色のジャケットの襟を掴むと、少し太めの母はくるりと同色のスカートの裾を翻した。 「似合う?」 ドヤ顔でそう言われ、「う、うん」と頷いてあげた。 「じゃなくて、なんでそんなにお洒落してるの?」 今一番の疑問を母に投げつけると、母は一瞬考えた風で 「一緒に買い物に行こうと思って。銀座に行きましょう♪」 「銀座?」 銀座と言う地名を聞いて、まぁ少し納得した。 ああいう場所に行くなら、母のくらいの年代の人ならこういった格好も妥当だろう。 それならそうと、一言電話でもメールでもくれればいいのに。 はぁと溜息を吐いた。 でもまぁ───。 どうせ暇なだけの休日だ。 母の買い物に付き合うなんてかなり久しぶりだし、たまには親孝行もいいだろう。 私は母を待たせ、出かける準備を始めた。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15039人が本棚に入れています
本棚に追加