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そしてたどり着いたのはまたも有名パーラー。
今日の母はやたらとセレブだ。
その頃はもう母の行動に慣れ切って、普段とは違う非現実的な時間の流れにすっかり疑問すら抱かなくなっていた。
エレベーターから降りて店内に入ると、母は私の前に立って歩き出した。
白いテーブルクロスを敷かれたテーブルが目に入る。
漂う料理の匂に空腹感が刺激される。
「みっちゃん!」
すると奥の方のテーブルから、母を呼ぶ声が聞こえた。
みっちゃんとは、母の親しい人が呼ぶ、母の愛称だ。
「えっちゃん!」
そして母はその声に答えるように、軽く手を上げた。
ひょいと母のお友達を母の後ろから伺ってみると、母とは対照的なすらりとした綺麗なマダムがいた。
年は母と同じくらいだろうけど、醸し出す雰囲気が優雅と言うか。
それに素敵な年の取り方をしたかなりの美人だ。
若い頃はさぞかしモテたんだろうな。
「そちらが、千咲さん?」
マダムは私をチラリと見て、微笑んだ。
「佐久間悦子(サクマエツコ)といいます」
これまた優雅にお辞儀をされ、気後れしていた私も慌てて頭を下げた。
「藤浪千咲です」
悦子さんは私の顔を見ると「みっちゃんそっくりね」と淑やかに微笑む。
「………母さん?」
悦子さんの雰囲気に見惚れていた私は、その声を聞いて悦子さんの隣の席へと視線を移した。
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