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「わぁ、キレイ」
五歳になる娘が広場にある桜に向かって駆けていく。
青々とした芝生に可憐な色を添える、桜の木たち。
春になると新興住宅地の一画にあるこの広い公園は、整然と並ぶそれらを愛でようという人々で賑わう。
ここがかつてあった高校の跡地だということを知っている人は、元々この辺りに住んでいた人たちくらいなんだろう。
「綺麗だね」
遮るもののない陽の光に目を細めた夫が、娘を見ながら呟く。
私たちは娘が小学校に上がる前にと、去年の終わりに私の実家近くのここへ越してきた。
だから勿論夫も、この土地のそんな過去は知らない。
「……そうね」
少し離れた場所から娘が私たちを呼んでいる。
温かな家族の休日。
娘に手を振りながら歩き始めた夫の背を眺めて、私も静かにそのあとを追いかけた。
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