群狼の長

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「そういえば、この犬大人しいな。仔犬だからもう少し騒がしいかと思ったけど」 ゆっくりとしゃがみ込み、輝宮の足下にピッタリとくっついている仔犬を一撫でして見ると、仔犬はくすぐったそうに目を細めた。 「うん、家でも全然騒がないし、いい子だよ。 むしろもう少し元気があってもいいくらい」 「躾がしっかりしてるんだろうな。 輝宮みたいな優しい主人になら不満なんて出ようもないさ」 こちょこちょと顎の下をくすぐってみると、シロと呼ばれている仔犬はこてんと寝転び腹をこちらに見せる服従のポーズをとる。 ぶんぶんと盛んに尻尾を振り回しているので、少なくとも嫌われてはいないようだ。 「わ、人見知りするこの子がこんなに早く懐くなんて珍しい。凄いね雷翔君」 「そうなのか?人懐っこそうな子だと思ってたんだけど」 「いつもだと凄いよ~。知らない人と会ったりするとすぐ私の後ろとか部屋の隅っこに張り付くもん。 そういえば雷翔君だけは最初から平気だったね。何か動物に好かれるものがあるのかもよ?」 「まあ、嫌われるよりはいいさ」 輝宮と笑い合いながらシロの腹をわしゃわしゃと乱雑に掻いてやる。 すると幾つか指に小さなつっかかりを感じたので、この子はどうやら雌らしい。 「ああ!シロ!そんな砂に体を擦り付けないでよ!後でお風呂だからね!」 撫でる手を止め、輝宮がリードを外すとシロは猛然と砂場に向かってダッシュし、ゴロゴロとそこで転がり始めた。 こればかりは看過出来なかったらしい輝宮が声を上げるが、そんなのはどこ吹く風とシロは思い思いに砂場で遊んでいる。 落ち着いた仔犬だと思っていたが、やはり年相応に遊んだりもするらしい。 「リード、外していいのか?」 見たところ生後数カ月の仔犬を一匹で遊ばせておくのは危険ではないかと思っての発言だったが、輝宮は笑いながら小さく首を横に振った。 「大丈夫だよ。この辺りには大型犬を飼ってる家は無いし、危ない害獣も居ないから。 あの子も賢いから私からそんなに離れようとしないし、目さえ離さなければ」 「成る程」 輝宮の言葉を聞きつつ、砂場で穴を掘って遊んでいるシロに目を向けると、時々こちらの様子を窺うようにこちらを見ていることに気がついた。 成る程、確かにかなり賢い仔犬のようだ。
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