群狼の長

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今度こそ確実に何かが割れるような異音を聞き届け、前に向けかけた顔を引き戻しアルマダを見つめる。 するとそれから数秒ののちに身体を包む氷に罅が入り始め、ルナの時と同様のかしゃあんという涼やかなサウンドエフェクトを響かせ、キラキラと光を反射させながら戒めが崩壊した。 あまりに唐突な状態異常の回復に少々驚きつつ、もしやと他の冷凍プレイヤーに視線を向けると、まるでアルマダのそれが合図になったかのように次々に涼やかなサウンドエフェクトが響き全てのプレイヤーが体の主導権を取り戻した。 「おうライト、お疲れさん」 「お、おう」 復活早々に一つ大きなくしゃみをすると、アルマダは何事もなかったかのように俺に労いの言葉をかける。 まあ、実際に攻略をしていれば状態異常になることくらいは珍しいことではないのかもしれないが、必死こいて全員を守った立場からするともう少し何かしらのリアクションが欲しかったような気もする。 「さて……状況は見てたから分かるが、随分と無理をしたようじゃないか」 「………お陰様でな。早く武器を拾いに行かなくて良いのか?」 アルマダの言葉にため息混じりの軽口を返し、ブレス攻撃を受けた際に取り落とした武装を回収しなくて良いのかと問いかけるが、アルマダはニヤリと笑ってかぶりを振り、メニューウインドウを呼び出す。 「別に盗奪(スナッチ)された訳でもないし、わざわざ自分で回収するまでもないさ」 そう言うとアルマダはウインドウ操作を始め、二度三度とボタンをクリックしていくとしゅわっという音と共にその背中に遠く離れたところで取り落としていた筈の黄金の斧が出現した。 「は?」 あまりにあっさりと装備を回収したアルマダを見て、俺はついそんな間抜けな声を漏らしていた。
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