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震えた携帯電話を手に取った。
目覚ましのアラームかと思い眠い目を擦り画面を見れば、メールの受信だった。
「………伊東かよ」
深夜に届いたその差出人を見て少しイラッとするも、珍しい人からのメールにそのまま画面をタップした。
そのメールを見て、すぐに眠気が吹っ飛んだ。
【中尾君、お久しぶり!伊東七海だよ~。
今日は会社の先輩の結婚式に来てます!
美男美女ですっごく綺麗だから、中尾君にも写メ送ります。
中尾君も幸せになるんだよ。
先輩は………すっごく幸せそうです!】
文章を見て、そのまま下へとスクロールして見えてきた添付写真。
そこには、ウエディングドレスに身を包んだ、千波がいた。
幸せそうに微笑み、隣の男と寄り添っていた。
「この男は………あの時の………」
日本出張で千波と再会した時、千波が切なげに見つめていたあのイケメンが、その写真の千波の隣にいた。
俺のプロポーズを断って、この男を選んだ千波。
人生のやり直しなんてきかないのは分かっていたけど………あの時激しく後悔した。
どうして俺は千波を手放したんだろうって。
千波はずっと俺の事を待っていてくれるって自惚れていた自分が情けなくて仕方なかった。
あの時千波を手放さなければ、この写真の隣にいたのは、
────俺だったのかもしれない。
そんなくだらない発想に、自嘲する。
「………幸せになるんだぞ」
写真に向かって、俺はそう呟いた。
とりあえず
【俺は少なくとも、伊東よりは先に結婚できるから】
と伊東に返信し、再びベッドに寝転がった。
過去の甘い恋を捨てる決心がやっとついた。
俺だって、千波に負けないくらいいい女を見つけてやるんだ。
───千波、愛してたよ。
【春の嵐 完】
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