資料集に入る前に

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「おい相似……お前、まさか死ぬ気なのか!?」 「そうだよ健介。俺が死ななきゃ、皆の努力が無駄になるから」 「バカ野郎、お前の目には、何が見えてるんだよ!?」 大聖堂とも言えて、大広間とも言える空間の中で、二人の少年たちが互いの感情をぶちまけていた。 一人は抵抗、一人は享受の感情を。 「俺の目?俺の目には、希望が見えている。絶望も見えた。何もかも、この世界、想像の世界の全てが見えた」 「だから何だよ相似……お前……きっと悪いものに憑りつかれてるんだ。そうに違いない!」 健介は言い張る。 自分の見ている、耳にしている物事が現実ではないと。 だがこれは現実だ。 ほんの今さっきまで架空の世界だったものは、現実の世界となる。 これは誰かのいたずらか。 もし、もしもこの世に神様なんてものがいるのなら答えてほしい。 この世界は、どっちなんだ。 現実なのか、架空なのか。 だが、それすらもこの世界の神様は答えてくれない。 だって、神様なんているはずないのだから。 「そうかもしれない。俺はな健介。いままでただ漠然と生きてきた」 「だから何だよ……俺は、俺はな相似。お前に初めて話しかけられた時、めちぁくちゃ嬉しかったんだぜ」 健介にとっては、相似の遺言の様に聞こえたのだろう。 だが、これは遺言ではなくて彼の成長を表す言葉だった。 そのことにまだ気付けていない健介は、子供だった。 「分かった。分かったから、大丈夫だよ健介。俺は、死ぬつもりなんて一切ないさ」 相似は、健介の友は、はっきりと言った。 「死ぬつもりがないんだったら、戻ってきてくれよ!ハーレンが泣くぞ、お前がいねえと」 「いいんだよあんなビッチ。ハーレンはな健介、」 この言葉を最後に、相似の体がふわりと宙に浮いた。 これは、マナスコアとして目覚めた者の運命だと、奴が言っていたことを健介は思い出す。 ハーレンはな、お前のことが、好きなんだよ。 だからお前に好きになってもらおうと、ビッチのふりをしてたんだ。 不器用な女だよ、彼女は。 相似は最後にそう言いたかったが、時間が時間なのだから仕方ない。 マナスコアの運命とは、ゴッドスコアに転生すること。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!