第一章 出会いの日

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「油断だなぁ、晃!! 敵が一人だけとは限らん!!」 「ご教授ありがとうよ、義継さんよっ!!」  風呂の桶に霊力を送り、投げつける。遠くへと霊力を送り物体を支配する力場――“遠隔力場”だ。方術の応用たるその技に支配された桶は見事に義継の頭にぶつかり、吹き飛ばした。  入れ替わるようにして飛んで来た義達が爽やかな笑みを浮かべて、拳を突き出す。晃は壮絶な笑みを浮かべて、両手でそれを受け止めた。義達が美しい顔に驚愕を浮かべた。その面に、晃は頭突きをかました。 「ごふっ!!」  義達も吹き飛び、義継の上に折り重なるようにして倒れた。 「ふう……、朝の鍛錬ありがとうございます。お二方」  ふてぶてしい三日月の笑みを浮かべて晃は礼を述べた。鬼の一族である二人は額を手で抑えながら、起き上がった。 「おー、いたたた。いやぁ、晃君ってホント容赦ないよね」義達は本当に痛いのかと思う程にへらへらした笑みを浮かべて言った。 「全くだ。我々だから良かったもの。先日の修行者の中の幼き女子(おなご)にも、容赦ないからのぉ、主は」 「向こうだって、遠慮はいらねぇっつってたんだ。手加減したら、失礼だろ?」  打ち付けた頭を擦りつつ、晃は答えた。喰らった方も痛いだろうが、こっちもかなり痛い。  晃の戦い方は常に自分の体に犠牲を強いる。  これは、晃自身の個人的なポリシーみたいなものだが、術は使い手自身がその痛みをあるいは、苦しみを理解していなければ、その本当の実力――真骨頂は引き出せないと思っている。  先日来た修行者は今一つ、その感覚に欠けていた。そのガッツだけは認めてやっても良かったが……。等と、考えていると義達と義継の二人は伸びをして、さっさと出て行ってしまった。自由奔放な連中だと思う。  先程の戦いはお互い、本気ではなかった。彼らはあくまで試すだけ。その試練のレベルはかなり高度な物ではあるが、晃はそれを上回りつつある。 ――いつか、連中を越して……それで、どうする?  と、そこまで考えて、晃は自嘲した。今回は勝ったかもしれない。だが、勝率はまだ五分に満たない。先の事をあれこれ考えるよりも、次はどう勝つかを考えるべきではないか。 ――どの道、あいつらを上回れなければ、俺はここを出られないんだ。  五人の鬼の者達を実力で倒す事。それが師匠――役行者が晃に与えた試練だった。
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