第一章 出会いの日

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 そして、晃が修行者達の面倒を見る羽目になったのだが、小角からは「自分の事は決して明かさないように」と厳命されていた。五人の鬼達は何も聞いていない筈だが、主の繊細な事情については心得ているのか、誰一人として、修行者達に小角の事は漏らさなかった。  上手く隠し通せた、と晃は思うのだが、ただ一人修行者の中で一番年下だった少女の事が気に掛かっている。  彼女は霊的に視る才、霊視に長けているように見えた。それは単に霊力が見える見えないという能力に限らず、例えば未来を見通すような力も含まれる。占術では必要不可欠な力だが、これは単に勘で物事を当てるのとは訳が違う。  占術で見るのは、正確には未来ではない。今ある因果関係を霊的な視点から見て眺める。すると自ずと、未来に何が起きるかの予測が立てられるのである。  あの少女は、この寺の主が不在だと告げた時、真っ先に不審を顔に出した。何かに気が付いたのは明白。問題は、どこまで気が付いたのかという点だった。  修行を始めてからは、彼らは鍛練に意識を集中せざるを得ず、また考える暇も与えなかった。それは確かだ。だが、山から下りた後の事はどうしようもない。そもそも、今更正体について色々とばれたところで、一体何が困るのだろう。 「うむ、この役小角の事についてしつこく嗅ぎ回る輩がいてな」と、小角は穏やかな表情を僅かに歪ませた。まぁ、皆気になるのも無理はないだろう。ここにいるのは修験道の開祖たる人物だ。人によっては、神か仏位に考えてる者もいるに違いない。しかし、小角の口振りからするとそういう事情ではないらしい。
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