第一章 出会いの日

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「昨日は三人だからよかったもの。あれが十人、二十人と来られると困る」 「それって……」晃は反射的にその言葉の意味する所に飛びついた。 ――現陰陽寮。  晃にとっては因縁ある組織名が浮かぶ。自分の家族を村を救えるだけの力を持ちながら、何もしなかった者達。現陰陽寮の誰かがここにいたら、それを否定したかもしれない。或いは諭そうとしただろう。  考えただけでも気に喰わない話だ。否定する者はただの甘ったれ。何も失った事が無い者の声に過ぎない。  だが、それはさておくとして、師匠は一体現陰陽寮とどんな関係にあるのだろうか。 「いずれ話そう。それよりも、良いのか? 晃」 「はい?」  言われて遅まきながら気付く。大樹の群に霧が掛かっている事に。ただの霧ではない。“霊術”によるもの……。その霧の中を影が走った。続いて何者かの笑い声。木々に木霊している。ざわついてはっきりとは掴めない気配。晃は周囲の不安定な霊気に自身の霊気を同調させることで、ざわついた霊脈を落ち着かせる。  敵は霊脈に手を加える事で、この場全体に幻術を掛けている。すっと、霧が晴れた。  攻撃は笑い声と共に落下してきた。転がるようにして避けた瞬間、独鈷杵の先端の刃が地面を引き裂いた。 「相変わらず、殺す気なんじゃないかと思う程の威力だな、おい」晃の軽口に、男はゆらりと立ち上がった。小角と同じく長い髪だが、色は黒く下の方で二つに結われている。均整のとれた体つきだが、その雰囲気はどこか荒々しさがあった。野太刀を思わせる、骨でも噛み砕きそうな凄みをその朴訥とした外見の中に包み込んでいると言った方が良いだろうか。  外見と中身のギャップさ故に、彼自身の内に秘めた力が浮き彫りに現れるようだった。
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