第一章 出会いの日

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 他の兄弟と同じく赤い法衣に身を包んだ鬼――五鬼熊(ごきぐま)真義。 「で、なければ、君も思う存分戦えまい?」  ごもっともだ。この五人の鬼の中でもリーダー格に当たる真義は晃の気持ちを一番分かってくれている。その事に感謝しつつ、晃は拳を握る。朝食前の戦いはほんの準備運動に過ぎない。  三日月の笑みを浮かべて、晃は両手を広げた。その体の周りを“具現化した甲冑”が覆っていく。鬼を模ったかのような角と尾毛をあつらった兜に、黒塗りの胴当て、脚には佩楯(はいだて)脛当て、そして腕には手甲と籠手――その両の籠手から肩にかけて、薄く広い刃が外側に向けて取り付けられていた。血のような紅と黒の刃だ。 「そんじゃ、まぁ、お言葉に甘えさせてもらうとするぜっ!!」  戦闘は単純明快、霊力を両腕の刃に集中し、上から下へと叩きつける。真義は必要最低限の動きで後退し、それを避けた。霊力を伴って振り下ろされた刃が地面を叩き割り、円状に衝撃波が飛ぶ。並の人間だったら、まず立っていられずに吹き飛んでいただろうが、そこにだけ結界が張られたかのように、真義は平然と立っていた。  今のは渾身の一撃だったのだが、届かなかったようだ……晃は溜息を吐いた。 ――ま、初撃でやれる筈がないよな。 そして、腰を捻るや否や、“背後に回っていた真義”に刃を浴びせかけた。 「今のは見破れたようだな」  眉一つ動かさず、その刃を片手で受け止める真義に、晃は毒吐く。 ――幻術。その多くの使い手の弱点は、本当に相手が騙されているのかが分からない所にある。騙された振りをして、逆に敵の裏を掻くのが、幻術使いを倒す理想のセオリーなのだが。  流石に騙された振りだけで、出しぬけるような相手では無い。そうこなくっては修行の甲斐が無い。
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