第一章 出会いの日

14/60
前へ
/418ページ
次へ
 雷は木気であり、火の霊術には弱い筈だが……今の渾身の霊術をいとも容易く蹴散らされた事を考え、正攻法では勝てないと判断。晃が考えを変えるのに反応するかのように、両腕の刃は赤から黒へと変じる。 「壬に己を重ね、泥水と為す」  黒の刃を叩きつける。と、同時に泥水が真義の足元目掛けて飛び、脚に掛かった。 「恩師に泥を掛けるとは……」と真義は苦々しくもどこか、笑い出したそうな顔で言った。 「顔じゃないだけ、大目に見てくれよ」 「ふむ、そうだな。それに、単なる悪戯でもない、と」  晃の軽口を適当にあしらい、真義は術を解除した。独鈷杵から迸っていた雷が止む。真義の言う通り、今放った霊術は単なる嫌がらせではない。霊力のこもった泥水であり、雷の霊術を防ぐ一手である。  雷は木気から成る。そして木気は水気を好み水気に引き寄せられる。今、ここで新義が雷を放てば晃にではなく、己の身体を正確には、真義の脚についた泥水に引き寄せられてしまう。  泥水など乾いてしまえばそれまで……とは言わせない。霊術によってこびり付いた泥水は土気と木気を孕んでいる。攻撃に直接転用するものではない。水気を保たせる為の仕掛けだ。一度放てば術者がどうなろうとも、構成された霊気で術は稼働する。 「ふむ、なんとも君らしからぬ回りくどい手ではあるが……、雷をあえて封じたのは、君の得意とする土俵で戦う為、か?」 「えぇ、まあね。直球勝負がしたいんですよ。技の威力を直接ぶつけ合う戦いの方が俺の性に合っているんで」  刃の色が再び変じる。黒よりもなお暗く、濁った闇の色の霊気――息の詰まるような陰の瘴気が吹き出す。色だけでなく形状もそれまでのシャープで機能美ある物から、禍々しく凶暴さを感じさせる武骨な物へと変じる。同時に茶髪が金色の婆娑羅髪に。口にはびっしりと牙が生え揃う。
/418ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加