第一章 出会いの日

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 対して、真義も鬼気を開放した。髪留めの紐が弾け飛び、黒から白へと色を変え――長い髪が逆立つ。肌の色は逆に陽から陰へ。瞳は漆黒。変化すると同時に、大地が揺れ、小石や小枝が舞った。森がざわつく。全身の毛が逆立つかのような恐怖そして、戦いの熱に晃は頭がくらくらとしてくる。  これ程、存分に戦うのはいつ以来だろう。過敏になる神経、ふと小角が視界の端で座禅を組むのが見えた。小動物達に囲まれ穏やかに眠るように瞑想している。まるで、そこだけが世界から切り離されたかのような異様な空間を生み出していた。 「どぉした!? 直球勝負がしたいと言ったのは君だぞ!!」  すぐ目の前にまで迫る真義。一瞬でも、気を取られたのは失態だった。 ――しまった。  そう思った時には懐に潜り込まれ渾身の拳を浴びせかけられる。甲冑を身に付けていてなお衝撃が響く程の一撃。晃は思わず膝を突いた、と同時に、脚を繰り出す。真義が踏み出した足に引っ掛けて回し、身体のバランスを崩しに掛かる。 「ぬ!! 今日はやたらと小細工の多い!!」 「はっ!! 誰かさんにこの前、技巧に乏しくていかんと叱られたもんでねェ!!」  その誰かさんとは、役小角だ。晃の師匠は鍛錬にはまるで付き合ってくれないのに、言う事だけは言っていく。それも、中々耳が痛くなるような指摘が多い。  こうしている間にも小角の方から小言が飛んでくるのではと思いつつ、晃は拳を振り上げた。 「小技は、実戦においては大きな隙と成りうる!!」  飛び上がるように後転し、起き上がる真義。振り下ろした攻撃はまたも空振りに終わった。飛び上がり、着地と同時に足を沈める。そして、真義はロケットのように突っ込んできた。 「一撃にて確実に仕留められる大技を一つ持て。さすれば、百人と相対しても勝てるであろう!!」  咄嗟に結界を張った。真義の拳はその結界を安々と砕き割り、晃の頬を打った。呼吸が止まるかと思う程の衝撃に、晃の身体は一回転し大樹の太い幹へと叩きつけられた。
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