第一章 出会いの日

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†††  夜の空に漂う。そんな表現が一番しっくりと来るような感覚だった。但し、決して心地の良いものではない。どうしようもない体の痛みを、横になることで誤魔化すようなもの。  沙夜――かつての陰陽少女にして、今は物の怪と彼らが持つ人の闇を糧に生き続ける存在。今の自分が人に当たるのか、物の怪に当たるかは、彼女自身にすら定かではない。誰かが判定しようとすれば、彼女は天邪鬼の如く、その逆を言うだろう。 ――人、いいえ、違うわ。私のどこに人らしさがあると言うの? ――物の怪、いいえ、違うわ。私程、人間らしい負の感情を持っている者がいて?  人であり人でない。物の怪であり物の怪でない。半妖などという分かりやすい存在でもない。人でありながら、貪欲な闇が口を開ける穴の中に、幾万もの物の怪ごと放り込まれ、その中でほぼ千年もの間、生き続け復活した者――それは、清楚な川に墨を流し込み、混ぜ合せる行為にも似ている。  今の自分は『陰陽少女』としての加護その名残が未だに残っている。物の怪を惹き寄せるという力が。だが、同時にかつてと違い、物の怪と戦う必要も無くなった。今の彼女はただ物の怪を寄せ、弱ければ取り込み、強ければ僕にする事が出来た。京都の地下にある闇の吹き溜まり――彼女がそう呼ぶだけで、本当は何と呼ぶのか等は知らない――そこで存在し続ける為に得た力だった。  本来は物の怪を滅する為にこの世界の神が“勝手に”付加した力。それがどうしてこのように変化したのかは、彼女にも理解出来なかった。だが、たまに思う事がある。 ――孤独になるのが嫌だから、それで力が変化したのではないか、と。愚にもつかないどころか、失笑すら浮かぶ考えだ。彼女が僕にするのは、元は物の怪だ。
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