第一章 出会いの日

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 一部の例外に迦具土神がいた。あれが単なる抜け殻だったとはいえ、仮にも神を僕として扱う等、恐れ多いとか言い出す人間もいるだろう。だが、そもそも人が神と呼ぶ存在とは、この世界を構築している膨大な霊気そのもの。その具現に過ぎない。 ――神は人等見ていない、これが現実だ。人がちょいと崇めたくらいで思い通りになるなど、それこそ神を疎んじている。その程度で思い通りになるくらいならば、自分のような呪われた存在が生まれるわけもない。いや、もっと言えば物の怪等と言う存在が生まれる筈も無い。  勝手に役目を押し付け、望んでもいない加護を与える。その行為を恨み、憎む沙夜の方が余程、人間らしいというもの。いや、或いは違うのかもしれない。 どれだけ奪われようとも、どれ程に傷つけられても、たとえそのせいで死のうとも、信仰し続けるのが、人間らしいのか。 沙夜には分からないし、吐き気がした。  だからこそ、自分が人なのか物の怪なのかが分からない。  ただ、多くの人間の信仰心、信じている道が、いかに嘘偽りで塗り固められているのかは、分かる。こうして、外の世界に出て来れて確信した。  人は相変わらず、自分よりも弱い存在を貶め、奪い、蹂躙して生きている。だけど、それを人は当たり前の事と呼ぶ。それもそうだ。この世界のどこに、自分の道が正義と信じる代わりに、多くの人間を破滅へと導いていると信じたがる者がいるだろうか。  嘆きは極小の意見として跳ね返し、僅かな幸せや希望は取り上げ、人知れず生を断つ者には手向けすらやらない。そういった人間を気まぐれに見つけては、沙夜は陰の界に引きずり込み、彼らの心を解放してやった。
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