序章 復讐の火付け

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 今にも崩落しそうな家の壁を突き破り、鉄球が飛んで来た。黒と白の陰陽が描かれた鉄球は幻獣の頭を砕き、勢い余って少年が寄りかかる柱をも貫いた。  何が起きたのか分からないまま、少年はその炎の中で立つ一人の男を見た。ボサボサの髪をオールバックにし、顎髭を伸ばした男。黒の法衣が熱風に煽られ吹き上がるが、男は熱さを微塵も感じていない様子だった。 「ちっ、村の連中を喰らって大分デカくなってやがる……」  頭を砕かれては流石の幻獣も死んだに違いない……という少年の憶測は見事に外れた。幻獣は頭を失った体でぐらりと不気味な音を立てながら起き上った。その喉からは溜息のような音が漏れている。 「火責めに逢うても身に少しも障らず。常に唱えれば火災なし。――おん・すいりゅうてん・そわか……少年、口閉じてな」  何やら指の先で地面に何かを描いた後、男は唐突に呼びかけた。少年の事を死体だとは思わなかったらしい。少年は訳が分からないまま、口を閉じた。突然、鉄球の周りに水流が発生した。四方に放出された大水は、周りの炎を呑み込み家を完全に破壊した。当然、少年の事もお構いなしに。少年は水に流され外へと吐き出された。  だが、不思議とどこも怪我は負っていない。あの幻獣もまた、外に押し出されていた。頭の無い首が少年に向けられる。ひっと思わず喉が干からびる。今度こそ、自分を獲物と認識したのだ。妹を庇った時の勇気はどこに行ったのか。少年は腰を抜かしたまま、後退った。  幻獣が後ろ足を蹴り、まさに飛び掛かろうとした瞬間、その体に何かが巻き付いた。 「待ちな、俺が相手してやるっつーの!」  男の操る鎖だった。その先端にはあの鉄球が付いている。まるで生き物のように動き回り、幻獣の身体を縛り締め上げていく。 「水――陰なる気を以て、これなる邪気を剋し、滅さん」  光り輝く鎖が、幻獣の身体を粉々に砕いた。ぼう、と燃えたのも一瞬、鎖の周りに現れた水に押し込められて鎮火される。
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