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「あら、現陰陽寮も動いたみたいね」
夕立が降ってきたわ、というような気軽さで義賢は遠くの空を見つめた。
――そんなこと言われても、私には全然わかんないんだけど。
永田未来は、そんな感想を胸中でぼやいた。素直な感想としては、どうしてこうなったである。
結局、一真とも月とも気まずい仲のまま、一人で家路につくはめになった未来は、途中で久々に笹井城阪と再会することになった。最初は驚きと喜びに打たれた未来だったが、彼がこの女――義賢と言うらしい――と知り合いであることを知って、別の感情へと置き換わっていた。
――疑惑と恐怖に。
五月の初め、共にあの地獄を潜り抜けた人が、実はどこぞのスパイだった……映画みたいな展開をまざまざと見せつけられた
――といっても敵か味方かもわからないものね……。
義賢は正体を明かさないまま、笹井と共に現れた。「あなたの思い人が超ピンチなんだけど、あなたも一緒に来る?」と誘われ、ホイホイついてきてしまった形になった。
尤も、義賢の言葉だけだったら、信用はしなかっただろう。笹井が真剣な顔で「来てくれないか」と言ってくればければ、ついてはこなかっただろう。
――今でも信用は半々ってとこだけどね。
義賢と名乗る女性はお供を二人つけていた。
二人共、ドレッドヘアの髪で肌は焦げ茶色。ダークグリーンのシングルスーツ。大柄な方が義上で、小柄な方は、義元。同じくドレッドヘアだが前髪が剃り上げられている。相方とお揃いのスーツを着こなしていた。
どちらも気さくな性格なのだが、未来は話に付き合う余裕はなかった。今、未来達は大峯山の山中、前鬼の里と呼ばれる場所にある小屋の外にいた。義賢はなんともマイペースな性格で、「お茶でも飲んでかない?」とまで言われたが、結局中には入らなかった。
「あの……、あなたはこれからどうするつもりですか?」
「あら、お姉さんか、義賢でいいのよ?」
いつまでも達観した姿勢を崩さない義賢に、痺れを切らして未来は訊ねてみたものの、軽くあしらわれる。段々と彼女も腹が立ってきていた。ただ、ここで怒りをぶつけてみたところでそもそも、力では敵わないし、意味がない行為であることも重々承知していた。
「……で、一真は、どこに攫われたんですか?」
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