第五章 天胄地府祭――魂の在り処

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†††  一条八鹿が、人形の式神を次々に打ち出していく。武者の姿をした人間大の式神は、周囲で祝詞を唱えていた術者を片っ端からなぎ払い、主の為に道を切り開いた。  八鹿が顔を覆っていた仮面を毟り取るや、博人の足元に投げつけた。博人がごく自然な動作で、振り返り、怒りの余韻の残る仮面を静かに見下ろした。 「我々を信用できなくなったかな?」 「元から信用などしておりませぬ」  博人の問いかけに、八鹿は唾棄するように告げ、式神をぶつける。が、両者の間に、割って入ったのは朱煉獄だった。真っ向から殴りかかってきた武者の式神の頭を左腕のひと振りで粉砕、左右から斬りかかってきた式神には、霊力そのものを両腕に溜めて、ぶつけ弾き飛ばした。 「朱煉獄、現陰陽寮の連中の方の相手を頼む」  博人が、朱煉獄に群がる式神を博人は赤く燃える刃で切り捨てた。  朱煉獄は咄嗟に反発しようとして、止めた。代わりに壁を思いっきり殴り、出口を作り出す。 「ふん、まぁ、それが一番だろうて。鵺、貴様も来い」 「ひぃ……ひひひひ、わ、わかりました」  怯えているのか、笑っているのかわからない声で鵺が続く。  一真も月もそれを黙って、見届けるしかなかった。とても、動ける状況ではない。 ――八鹿。  一真は、以前“魂呼ばい”の怪異の時に敵対した人形の式神使いを見た。彼自身は直接彼女とは対決していないが、彼女が他の姉妹と同様に、厳格で頑固で融通の利かない性格であることはすぐに見て取れた。  その性格ゆえに、騙されたことも。 だが、基本的に彼女は現陰陽寮に対して忠実な性格であることも後で、海馬に聞いて知っていた。曰く、その決定には一寸の疑いも入れないほどに……だそうだ。  それは、現陰陽寮への盲信というよりも、陰陽師に課せられた、陰陽の霊気のバランスを司り、護るという使命に殉じているらしい。  だが、今、なぜ、彼女が沖博人の元にいて、彼の仲間であるかのように振舞っていたのか。そして、このタイミングで裏切るその意図はなんなのか。
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