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「どうする? 博人さん」と、伊織が後ろから聞いた。その声は、八鹿にも聞こえている……というよりも、聞こえるように話しかけているようにも見えた。
「八鹿君。今一度確認しよう」と、博人は前にでた。朱煉獄が空けた穴から漏れる光が彼を照らしだした。目で見る分には明るくなった筈であるが、彼の顔はさっきよりも影を増したように見えた。感情の読めない瞳がただ、じっと八鹿を見つめている。
八鹿の式神の動きが止まった。使い手を護るように、両者の間に割って入るものの、その動きは酷く頼りなかった。
「仲間になるというならば、拒まない。去るというならば、追わない。が……歯向かうとなれば別だ」
すっと懐から出したのは、一枚の霊符だった。黒に朱の文字が書き連ねられたもので、呪いの霊気がすっと立ち上っている。
「君の――いや、君たちの最大の過ちは、陰陽師に立ち向かえる者などいない――と思ったことだよ。このタイミングで裏切れば、傷の一つでもつけられると、或いは倒せるのではと、思ったかね?」
霊符が手を離れ宙を舞う。それを何らかの攻撃と見て、一真は八鹿の前へと立った。が、それは酷い勘違いであった。
目の前を舞った霊符は、博人自身の刃によって切り裂かれた。
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