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「我々に巣食う鬼の力。我が主、その“残滓”も、我が妻も、そしてお前達息子もそれを否定した。だからこそ、別れたのだよ、我が息子よ――この私に巣食う憎悪、怒りは、あらゆる敵を討ち滅ぼす!!」
振り上げられた斧を、真義は剣で受け止めた。両手で柄を握り締め、両足を大きく開いて全力で受け止める。地面に足が陥没し、そのまま後ろへと徐々に押し出されていく。
「その使い方はいずれ、自らを滅ぼす! だからこそ、我々は向き合ったのではないか! 己に巣食う鬼の力、その源である多くの思いと!」
鬼の刃が目まぐるしく動き回り、ぶつかっては離れ、離れてはぶつかる。その度に、周囲に霊力の波動が撒き散らされた。
「くそっ」
一真は瓦礫を霊力の遠隔力場――周囲に漂う霊気を操る方術――を使って動かし、博人へとぶつけた。が、破片は、博人へと届く一歩前で止まり、地面に落ちた。
「記憶を取り戻して、少しは力がついたみたいだね」と博人は、ごく客観的にその力を評した。
が、一真の頭は今もぐちゃぐちゃだった。フラッシュバックのように蘇った記憶はどれも自分が体験したことのないものばかり。にも関わらず、脳はそのときの記憶をしっかりと覚えている。
身体と頭が切り離されてしまったかのような感覚に、吐き気とめまいを覚えつつ、一真は立ち上がった。
目の前には八鹿がいる。なにをされたのかは分からないが、まだ浅く身体が上下している。死んではいないかもしれないが、瀕死の状態であるのは間違いない。
彼女が持つ霊気は急速に弱まっている。周りにいた式神が次から次へと倒れ、滅された亡霊のように身体が消えていく。
義覚は晃が真義と呼んでいた鬼が抑えている。長くは保たないだろうが、脱出のきっかけにはなるはずだ。
問題は、他の面子だった。博人は言うに及ばず、伊織やその傍らでじっと控えるくノ一の牡丹。更には博人が夜叉姫と呼んでいた片腕の鬼女もいる。
単純にこちら側の手数が足りない。
月もそれは一真以上に分かっている筈で、美しい顔を険しく歪めていた。
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