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日向が夜叉姫を相手にしている隙に、月は八鹿の体を抱き上げ、後ろへと下がらせた。
「生きてる」と、問いかけるような視線を向ける一真に月は静かに告げた。浅く苦しそうに呼吸している八鹿だが、確かに生きている。傷らしい傷もないが、ただ、急速に霊気が失われていくのが見えた。一体どんな呪詛をかけられたのかは、月にも分からないらしい。
一真は博人を睨んだ。が、呪詛を掛けた当の本人である博人もまた、険しい顔で八鹿を見ていることに気がつき、戸惑う。
「伊織様、夜叉姫殿に加勢致します!」
伊織の背後より牡丹が飛び出る。伊織が一瞬止めようとして、止めた。くノ一が、呪詛を刻んだくないを投げつけたが、日向は右の帯で、夜叉姫をあしらいつつ、左手で九字を切り、簡易結界を張って防いだ。
空中に手のひら大の五芒星が浮かび、くないを防いでいる。日向が軽く押すと、結界は制御を離れて空中にいた牡丹へと激突、後ろへと吹き飛ばした。
「あらら……、まぁ、そうなるよね」
「も、申し訳ありません」
元の位置に着地した牡丹は、非難しているというよりも呆れている伊織に、土下座で詫びた。
「くノ一、そして、そこの壊れた祭壇は魂を操るとされる泰山府君祭のもの。あんた、土御門の人間?」
夜叉姫の攻撃を際どいところで避けて、月の元へと飛んだ日向が聞いた。
――土御門!? それって……。
驚愕して、改めて伊織――土御門伊織に、視線を向ける。陰陽師はあっさりと事実を認めた。
「あぁ、そうだよ。僕は現陰陽寮の現在のトップに君臨している土御門家の次男坊――それが、こうして荒くれ者の真似事をしていることに驚いたかい?」
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