第五章 天胄地府祭――魂の在り処

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 一真の視線と未来の視線が交差した。が、先に視線を逸らしたのは未来だった。 「あらぁ、ここはまた随分と賑やかねぇ」  そこに場違いな程明るい女性の声が響いた。青の着物に身を纏った黒髪の妖艶な美女だ。右手には槍、腰には瓢箪が紐で括りつけられている。 「義賢さん!」  晃が叫ぶと、義賢はウィンクを返した。後鬼義賢。前鬼とは対を為す存在だ。当然、、義覚は反応した。 「義賢……!!」  義賢は一歩下がった。その両脇を二体の鬼が通り過ぎていく。どちらもドレッドヘアの褐色。どちらも修験者の装いで、手には鬼の面を象った刃の独鈷杵を持っていた。  二人の鬼が義覚を抑える中、義賢は気品のある足取りで、役小角へと近づいて行く。 「我が主様、ご機嫌よう」 「義賢、私の式神――、」  それまで、自分達の式神の成り行きをただ見守っていた役小角が、初めて口を開いた。が、それ以上会話を続けるようなこともしなかった。 「博人――、現陰陽寮のやつらがこちらに向かっている」  博人は穏やかに頷いた。 「私の目的は既に達成している……が、君は?」  友人を気遣うような素振りに、役小角は、鼻を鳴らして一蹴した。 「ここで殺してもいい。だが、腐っても私の式神だ。簡単には死なないだろう。ここで時間を費やせば、現陰陽寮に囲まれる」  その返答を待っていたかのように、二人の背後には一枚の鏡が浮かび上がった。  一真は反射的に身を強ばらせた。幼い頃に見た鏡と雰囲気が似通っている。 「義覚、夜叉姫」  小角の呼びかけに、義覚は従順に、夜叉姫は反抗期の子どものように口を尖らせながら従った。戦いを切り上げ、博人の傍へと駆け寄る。 「他の者はどうします」  義覚が疑問を投げかけると、役小角は式符を一枚取り出し、空へと放った。鴉へと変化したそれは、先ほど、朱煉獄が空けた穴から飛び立っていく。 「沙夜はどうする」  役小角が博人に尋ね、指さした。  その言葉に、晃と一真と月の三人が、沙夜の前に立ち塞がる。激しく消耗しているこの三人をどかすのに、さして時間は掛からない筈だが、博人は首を振った。 「戻る気があるのならば、また出迎える機会はいくらでもある」 「今度会う時には、敵として立ちはだかるかもしれんぞ」  役小角の警鐘にも、博人は考えを改めなかった。 「それはないな。彼女が彼女らしく生きられる場所は、他にはない」
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