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一真の視線と未来の視線が交差した。が、先に視線を逸らしたのは未来だった。
「あらぁ、ここはまた随分と賑やかねぇ」
そこに場違いな程明るい女性の声が響いた。青の着物に身を纏った黒髪の妖艶な美女だ。右手には槍、腰には瓢箪が紐で括りつけられている。
「義賢さん!」
晃が叫ぶと、義賢はウィンクを返した。後鬼義賢。前鬼とは対を為す存在だ。当然、、義覚は反応した。
「義賢……!!」
義賢は一歩下がった。その両脇を二体の鬼が通り過ぎていく。どちらもドレッドヘアの褐色。どちらも修験者の装いで、手には鬼の面を象った刃の独鈷杵を持っていた。
二人の鬼が義覚を抑える中、義賢は気品のある足取りで、役小角へと近づいて行く。
「我が主様、ご機嫌よう」
「義賢、私の式神――、」
それまで、自分達の式神の成り行きをただ見守っていた役小角が、初めて口を開いた。が、それ以上会話を続けるようなこともしなかった。
「博人――、現陰陽寮のやつらがこちらに向かっている」
博人は穏やかに頷いた。
「私の目的は既に達成している……が、君は?」
友人を気遣うような素振りに、役小角は、鼻を鳴らして一蹴した。
「ここで殺してもいい。だが、腐っても私の式神だ。簡単には死なないだろう。ここで時間を費やせば、現陰陽寮に囲まれる」
その返答を待っていたかのように、二人の背後には一枚の鏡が浮かび上がった。
一真は反射的に身を強ばらせた。幼い頃に見た鏡と雰囲気が似通っている。
「義覚、夜叉姫」
小角の呼びかけに、義覚は従順に、夜叉姫は反抗期の子どものように口を尖らせながら従った。戦いを切り上げ、博人の傍へと駆け寄る。
「他の者はどうします」
義覚が疑問を投げかけると、役小角は式符を一枚取り出し、空へと放った。鴉へと変化したそれは、先ほど、朱煉獄が空けた穴から飛び立っていく。
「沙夜はどうする」
役小角が博人に尋ね、指さした。
その言葉に、晃と一真と月の三人が、沙夜の前に立ち塞がる。激しく消耗しているこの三人をどかすのに、さして時間は掛からない筈だが、博人は首を振った。
「戻る気があるのならば、また出迎える機会はいくらでもある」
「今度会う時には、敵として立ちはだかるかもしれんぞ」
役小角の警鐘にも、博人は考えを改めなかった。
「それはないな。彼女が彼女らしく生きられる場所は、他にはない」
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