第五章 天胄地府祭――魂の在り処

133/135
前へ
/418ページ
次へ
 それから、博人は一真にもう一度視線を戻した。  既に霊気を見るまでもなく、洞窟の外では戦闘音が響いていた。鵺の放った式神と、現陰陽寮の陰陽師が戦っているのだろう。そして、次第にそれは近づいてきている。が、それすらもどこか遠くの出来事のように響いていた。  惜しむように、苦い思い出を懐かしむように、博人が双眸を細める。凍りついた時をもう一度見返すように。  ここまで来るのに、一体どれだけの年月を掛けたのだろう。ふと、一真は思った。自分の中に眠る自分ではない者の記憶。それは、陰陽師がまだ公然と認められていた時代だった。  沖博人の言葉をそのまま信じるならば、彼はその時代に生きていた者だという。そして、一真も。  一体、どういう経緯を経たのか。そして――、叔父として沖家にいた頃の彼の姿は全て偽りだったのか。  聞きたいことはいくらでもある。  均衡は突然と破られる。博人の横の壁が、張られていた結界ごと破壊される。巻き上がる煙の中から、鉄球が飛び出した。 「おっと!!」  瘴気の左手で受け止めたのは、夜叉姫だった。壮絶な笑みを浮かべ、心地の良い衝撃に、歓喜に震えていた。 「十二……天将!! これは、玄武だなぁ!!」  鉄球には、鎖がついていた。しかも、ただの鎖ではなく、それ自体が不動金縛りの霊術となっている。鎖はうねり、夜叉姫の左腕へと巻き付き、瘴気を一瞬で浄化した。 「この攻撃……」と、晃が驚愕に目を見開いたが、夜叉姫の甲高い叫び声にかき消される。 「アハハハハ!!」  夜叉姫が生身の方の右の拳を大地に叩きつけた。たった、それだけで大地が躍動する。鉄球を放った者が舌打ちし、「援護射撃!」とどこかに向けて怒鳴った。  瞬間、洞窟の天井が爆発し崩れた。一真は傍で倒れている八鹿に覆いかぶさったが、破片が一真達のところに落ちてくる事はなかった。  鉄球の飛来した方向から護符が飛んできて、障壁を形成したのだ。夜叉姫を攻撃しておきながら、一真達のフォローまで出来る陰陽師など、数える程しかいない。  大きく崩壊した天井、そこには巨大な舟が浮かんでいた。歴史の教科書にでも載っていそうな古めかしい舟だが、その船底からは、不釣り合いな巨大な砲塔のようなものがせり上がっている。  砲口に当たる部分には五芒星が浮かんでいる。
/418ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加