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それは、危険で妖しく、しかし不思議と惹かれるような光景だった。どさりと鉄球が地面に落ちる。崩れた家からさっきの男がひょっこりと顔を出し、這い上がってくる。どこにも怪我も火傷も無いどころか、煤すら被っていない。
「ハ……片付いた頃にやってくるんじゃねぇっての」
男が毒づいたような一言に、少年は怪訝に眉を寄せた。すぐにその理由は知れた。この焼け跡に続々と入って来る人影があった。
鉄球使いの男の元に、彼よりもずっと若い男が近寄っていく。鉄球使いの男と同様、若い男もまた、時代劇から迷い込んで来たかのような恰好――狩衣――をしていた。少なくとも、消防のレスキュー隊員などでは無い事は確かだった。いや、もしかしたら自分は夢を見ているのではないか。今更ながら、少年はそんな事を思ったが、胸に焼き尽く痛みは本物だった。それに、さっき感じた恐怖もまた生々しく頭に残っている。それに――。
「玄武殿――!! 敵は?」
「俺が片づけたよ。こんちくしょう。なんだってもっと早く来なかった?」
「は……実は、何故か、作戦の承認が降りるのが遅く……」
その若い男の頭をごつんと玄武と呼ばれた男が小突く。
「馬ぁ鹿、俺は理由が聞きたくて聞いたんじゃねぇっつーの」
「せ、生存者は?」頭を抑えながら男が聞いた時、玄武の目が刃物のような鋭さを帯びた。
「いるように見えるか?」
男の視線が少年に向いた。その表情は憐みに満ちていた。途端、少年の胸に言い知れない怒りが染み渡った。
「なんで……」そこで初めて少年は口を開いた。少年らしからぬ憎悪に満ちた低いしゃがれた声で。
「なんで、俺だけを助けたんだよ。ふざけんな。あの怪物、いつでも倒せたんだろ? もっと早く着てりゃ、他の皆を助ける事が出来たんだろ? ふざけてんのか」
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