第五章 天胄地府祭――魂の在り処

134/135
前へ
/418ページ
次へ
 ぎらりと光り、直後、流星の如き霊力が降り注いだ。眩い光に視界が塗りつぶされる。展開されている障壁が早くも軋んだが、危ういところで月がその上から結界を張る。  その直撃を、義覚が斧で受け止めていた。  雄叫びを上げ、降り注ぐ浄化の光をも、押し戻そうとする鬼の本気に、一真は戦慄した。 「ほう、天城の砲撃を受け止めるたぁな」と、どこか長閑ですらある声が、再び響く。 「てことで、やっぱりお前さん方の力、貸してもらうぜ」  その声は洞窟にいる一真達に呼びかけるものではなかった。 「九天応元雷声普化天尊っ!!」  舟から放たれた霊力を上回る勢いの紫電が閃き、空気を引き裂きながら轟音と共に落ちた。それまであれだけの猛攻を防いでいた義覚の斧に罅が入る。  続いて、天井から四人の人影が降り立つ。  皆、狩衣に身を包んでいる。  春日刀真、春日蒼、吉備真二、吉備氷雨。  いずれも栃煌神社の陰陽師だ。そして、その中で春日蒼は既に祝詞を唱え終えるところだった。弓手を構えるように、左手を突き出し、右手を引き絞る。 「万物の霊気よ、我が命に従え! 我はこれ、世の理を乱す物の怪を討つ者なり、 百の邪を浄し、百の魔を滅し、百の病を癒せん! 急ぎ急ぐこと天帝太上老君の律令の如し」  放たれた矢が、澄んだ笛の音を伸ばしたような響きを伴って、激突した。  鬼を、邪を、滅する陰陽師の霊力が、義覚を、その後ろにいた博人や役小角、夜叉姫を呑み込んだ。  義覚は斧でなぎ払おうとしたが、斧は今度こそバラバラに砕け散った。体を張って、霊力の奔流を押し留める。そこへ、蒼は二の矢を打ち込んだ。  鳴弦、退魔の霊術に月の神の加護を乗せて放つ。星屑のオーラを尾に引きながら、鬼を貫いた。衝撃が、その後ろの空間をまるごと消し去った。  かつて陰陽少女、今もなお、月の神の加護と呪いを受ける巫女の一撃であった。  光が消え、煙が晴れると、そこは文字通り跡形も無く消し飛んでいた。  当然、義覚も、夜叉姫も、役小角、そして沖博人の姿もない。鳴弦を放った蒼とそれを守るように立つ三人、そして、呆然と立ち尽くす一真達の前、半分消し飛んだ洞窟の外には、いやに穏やかな景色が広がっていた。
/418ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加