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白髪にまとわりつくリボンを風にたなびかせ、沙夜は森の中を歩いた。こうしていると、あの時の事がうっすらとだが、思い出される。
傍らにはいつも少年がいた。元々、その少年には名前が無かった。辺境で育ち、暗殺者として育てられた少年と、沙夜は出会った。当時の陰陽師に言わせれば、あれは「縁」、今時の陰陽師に言わせれば、「運命」だとでも言うのだろうか。
――一真……そうだ、一真だ。
あの洞窟の中で沙夜は意識を半ば取り戻していた。目の前に現れた博人に対して、一真が取り乱す。ここまでは、予想できた。が、そこでまさか、あのような記憶を取り戻すとは。博人の霊術。あれは、一真だけに対してのものではなかった。
蘇った当初から、今のいままで気にも留めなかった――というよりも、意識の内にすら上らなかった記憶。いかに自分が憎悪のみで動いていた物の怪であったかを痛感させられる。
恐らく、他にもまだ、頭から抜け落ちた記憶が幾つもある筈だが――。
「それがなんだって言うの?」
元に戻ったところで、絶望が増すだけ。当時を生きていた人間は残らず死に絶えた。沙夜だけを残して。それが一番腹立たしいことだった。
「あ、さ、沙夜様!」
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