終章 火潰える時

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 晃の歩みが止まった。なんだ、その驚いた顔は、と沙夜はあからさまにムッとした顔になる。その瞬間、晃はプッと吹き出した。 「ハハハハハ!!」  唖然とする沙夜の前で、晃は元気があれば笑い転げそうな勢いで、声を上げている。 「なんだ、今すぐ殺されたいって言うなら」と、沙夜は大煉獄の柄に手を伸ばした。 「待て待て……今、お前霊力使ったら、ガス欠でぶっ倒れるぞ」  冷静に沙夜の状態を霊視(み)て取った晃は、軽く手を振って、思いとどまらせた。はったりではない。自分の霊気の状態は、沙夜も重々承知している。物の怪である彼女は、強大な力があるものの、常に霊力を摂取していないと、自分自身を保てないのが現状だった。  以前であれば、人間から。だが、今は式神がいる。式神は、核となる体がある限りは、霊力の枯渇の心配は滅多にない。戦闘などに参加させれば別だが、蒼空は、先ほどの戦いには参加していない。  彼女から霊気を受け取ることで、沙夜の体も正常に保つことができている。しかし、これ以上戦闘を行えば話は別。  とはいえ、晃の方にしても、これ以上戦いを続けられるような身ではないはずだ。鬼化の霊術は、生身の人間には主に精神面での負担が大きい。完全に『堕ちる』のであれば話は別だが、そんな覚悟が今ここで彼にあるはずはないだろう。 「だったら、なんの用? お前、最後の最後であいつらに手を貸したでしょ」 「なんだ、バレてんじゃねぇか」とふてぶてしい人を喰ったような笑みを晃は浮かべた。ここで、一真だったら、慌てふためいたところだろう。 「ふん、大体、あんた何が目的なの? 私を娶りたいなら、やめておくことね……」 「ぶふ、娶りたいだって、こいつ……!」 「そこ笑うな」  晃が手で口を抑えて笑うのに対して、沙夜は苛立たしさを募らせていく。本調子だったら、問答無用で殺せたのだが……。そのまま、背を向けて歩き出す沙夜に晃は言った。 「お前を放っておけない」
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