終章 火潰える時

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 彼女は怒ってるように見えた。視線も碌に合わない。ただ、何に怒っているのか、今の一真には分かっていた。そして、これからもっと更に怒らせるような或いは、悲しませるようなことを自分が言わなくてはならないことも。 「未来、ごめん。助かったよ。お前がいなきゃ死んでた」 「ふふん、それで?」と今度は妙に得意げな表情だ。 「でも、ごめん。やっぱ、俺が一番好きなのは――」と、ここで言っていいのか迷い、視線を落とした。 目の前でため息が聞こえ、一真はパッと頭を上げた。 「ちっ、まだ落ちないか」 「え、ちょっ、待て、お前、今なんて……」  慌てる一真に、未来はすっとぼけた顔で、明後日の方向を見ている。その隣ではなぜか、月が苦味を堪えるように、歯ぎしりしている。どす黒いオーラが激っているような感じがするのは気のせいだろうか。 「あ、いいのいいの。こっちの話なんだからぁ」  唐突に掛けられた声に、一真は身構えたが、その姿を捉えて拳を下ろした。からんころんと下駄を鳴らしながら歩いてきたのは、和服姿の女性だった。絶世の美女と言っても過言ではない。 ――義賢。彼女は二人の鬼をボディガードのように付き従わせていた。   「あ……、義賢さん」  未来の反応を見る限り、両者は知り合いであるらしい……一体どこで知り合ったのやら。   「義賢さん!! いままで、どこ行ってたんっすか!!」  晃が駆け寄ってくと、義賢と呼ばれた女性――正確には鬼女――は、「はぁい」と色っぽく手を上げて答えた。 「よぉ、ブラザー。今回は大分大暴れしてたみたいだなぁ」とこれは傍らにいたドレッドヘアーの鬼からの言葉。二体とも髪型が同じなので、どちらがどちらかは即座には区別がつかない。 「義上、義元も、まぁ元気そうでなによりなんだけどさ」  晃はホッと仲間に会えた安堵に、胸をなで下ろした。
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