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「あら、なら仕方ないわね」
あまりの手のひらの返しように、一同は唖然したが、中でも月と未来は、何故か一真の方に湿った視線を向けている。
「一真……、なんか女たらしになってる」
「ほんと、そうやって、いろんな女性を口説いて回ってるわけ?」
「なんでだよ! 訊ねただけだろ、今のは!! 後、月はせめて女性とのコミュニケーション能力が上がったと言ってくれよ……」
女性二人の言いがかりに近い疑いの眼差しを受けて、心が折れそうになる。そんな様子を、義賢がくすくすと小悪魔のような笑みで見守っている。これは何が何でも、聞き出すと、変なやる気がみなぎってきたところで、突然、義賢は顔を引き締めた。
「ごめんなさい。その話、もうちょっと後にしましょう」
その視線は虚空を見つめているように見えた……が、違った。その先に霊視(み)えるものに、いち早く気がついたのは、晃だった。
「師匠……!?」
いつの間に現れたのかもわからなかった。風に運ばれてきたかのように、その男は現れた。一真や月が身構えたのは無理もない。その男は、役小角だった。
傍らには、義賢の護りを固めているのと同じ気配の鬼がいる。一人は長身で長い髪を天辺で結った鬼、そして、もう一人は対照的に頭の天辺まで剃り上げたがっしりとした体型の男だった。
「本物……の方だよな」
「ふむ、その言い様だと『私』に会ったようだな。負の感情に塗れた私……、あれもまた『本物』だ」
この口調、物腰、どれも役小角のものであることに変わりはない。だが、何故かあの役小角から感じ取れる言い知れない不安感や威圧感はこの役小角には無かった。
周囲の自然と自身の霊気の調和が完全に取れた、陰陽師としてはある意味では完成形である存在であった。
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