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「貴様――!!」
役小角の影はようやく、役小角が何をしようとしているのか分かった。が、もう遅い。
「ただいま、我が家よ」
役小角の胸を懐剣が貫く。血は出なかった。そもそも、彼は既に霊的な存在であり、人間らしい部分と言えば、霊魂に根付いた精神のみの状態だった。
霊気が紐解かれるように、役小角という存在がバラバラになっていく。
「師匠ぉおおおおおおお!!」
晃が叫ぶ。その崩壊を止めようとするように、手を伸ばし駆け出したが、それを背後にいた彼の式神である葛葉丸と、鬼の真義が両側から押さえ込んだ。
「行ってはいけない!! 君も巻き込まれる!!」葛葉丸が美顔を苦しげに歪めながら、必死に留める。
「これが主の決断だ」と、真義は押さえ込みつつも、その視線は崩壊していく役小角に向けられている。
一真と月はただただ、その様子を見ているしかなかった。
「影――お前も大地に帰る潮時かもしれんぞ」
その言葉を、影は否定した。
「ククク、ハーッハハハ!! 誰が行くものかよ」
「ならば、良い」役小角の言葉は全てを手放すかのように、穏やかそのものだった。
「何!?」
「おまえは私の影だ。考えくらいは読める。決して、屈しぬ闘志。他のあらゆる意志を退け、目的を手にするその力……だがな、お前は決して得ることはできない。お前が求める栄光の未来など、掴んだ瞬間、崩れ去るだろう――そして、そのときこそ……、」
――……が……。
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