終章 火潰える時

11/14
前へ
/418ページ
次へ
「貴様――!!」  役小角の影はようやく、役小角が何をしようとしているのか分かった。が、もう遅い。 「ただいま、我が家よ」  役小角の胸を懐剣が貫く。血は出なかった。そもそも、彼は既に霊的な存在であり、人間らしい部分と言えば、霊魂に根付いた精神のみの状態だった。  霊気が紐解かれるように、役小角という存在がバラバラになっていく。 「師匠ぉおおおおおおお!!」  晃が叫ぶ。その崩壊を止めようとするように、手を伸ばし駆け出したが、それを背後にいた彼の式神である葛葉丸と、鬼の真義が両側から押さえ込んだ。 「行ってはいけない!! 君も巻き込まれる!!」葛葉丸が美顔を苦しげに歪めながら、必死に留める。 「これが主の決断だ」と、真義は押さえ込みつつも、その視線は崩壊していく役小角に向けられている。  一真と月はただただ、その様子を見ているしかなかった。 「影――お前も大地に帰る潮時かもしれんぞ」  その言葉を、影は否定した。 「ククク、ハーッハハハ!! 誰が行くものかよ」 「ならば、良い」役小角の言葉は全てを手放すかのように、穏やかそのものだった。 「何!?」 「おまえは私の影だ。考えくらいは読める。決して、屈しぬ闘志。他のあらゆる意志を退け、目的を手にするその力……だがな、お前は決して得ることはできない。お前が求める栄光の未来など、掴んだ瞬間、崩れ去るだろう――そして、そのときこそ……、」 ――……が……。
/418ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加