終章 火潰える時

13/14
前へ
/418ページ
次へ
†††  降下する天城―壱の船内には、舟を操る南雲輝海(なぐもかがみ)、その式神天后(てんこう)の他に、栃煌神社の面々が集っていた。皆それぞれが、それぞれの反応で、下にいる者の無事を喜び合っていた。  そして、もう一人。こちらは何を考えているか分からない様子の少年が一人。髪は茶色。肌は透き通るように白い。その瞳は鋭利な刃物を思わせる程に細められている。 「何を考えている……と、聞くだけ無粋ですかな、晴明殿」  傍に立ったのは鬼一頑徹。今回の現陰陽寮の作戦で、勝利の一役を買った男である。各方面からは次々と、十二天将直属の部隊からの報告が入り始めている。残っていたのは、在野の陰陽師と主を失った式神のみなのだから、現陰陽寮が負ける道理はないのだが……、しかし、ここまで上手く敵を追い込めたのは、鬼一がその頭脳の中に所持する戦術書のおかげでもあった。 「いや、今の“俺は”藤原霧乃。だから、悪いけどあいつが何考えてんのかは分からないねぇ」 「む、そうか。見た目だけではまるでわからなかった。すまん」  何故、謝られたのか分からず、霧乃は軽く肩を竦めた。それよりも、見た目だけでは、分からない程に自分は晴明に近づいたのかと、霧乃は静かに焦燥を募らせた。 ――光栄に思うべき……なんだろうねぇ。本当なら。  テレビの向こうのヒーローに憧れるのと同じくらい、陰陽師にとっての安倍晴明は神格化されている。だが、生憎霧乃には「テレビの向こうのヒーローになりたい」という気持ちが分からない。そんなもの、自分が無くなってしまうのと同義ではないか、と。 「一真……君はどうだい?」
/418ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加