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降下する天城―壱の船内には、舟を操る南雲輝海(なぐもかがみ)、その式神天后(てんこう)の他に、栃煌神社の面々が集っていた。皆それぞれが、それぞれの反応で、下にいる者の無事を喜び合っていた。
そして、もう一人。こちらは何を考えているか分からない様子の少年が一人。髪は茶色。肌は透き通るように白い。その瞳は鋭利な刃物を思わせる程に細められている。
「何を考えている……と、聞くだけ無粋ですかな、晴明殿」
傍に立ったのは鬼一頑徹。今回の現陰陽寮の作戦で、勝利の一役を買った男である。各方面からは次々と、十二天将直属の部隊からの報告が入り始めている。残っていたのは、在野の陰陽師と主を失った式神のみなのだから、現陰陽寮が負ける道理はないのだが……、しかし、ここまで上手く敵を追い込めたのは、鬼一がその頭脳の中に所持する戦術書のおかげでもあった。
「いや、今の“俺は”藤原霧乃。だから、悪いけどあいつが何考えてんのかは分からないねぇ」
「む、そうか。見た目だけではまるでわからなかった。すまん」
何故、謝られたのか分からず、霧乃は軽く肩を竦めた。それよりも、見た目だけでは、分からない程に自分は晴明に近づいたのかと、霧乃は静かに焦燥を募らせた。
――光栄に思うべき……なんだろうねぇ。本当なら。
テレビの向こうのヒーローに憧れるのと同じくらい、陰陽師にとっての安倍晴明は神格化されている。だが、生憎霧乃には「テレビの向こうのヒーローになりたい」という気持ちが分からない。そんなもの、自分が無くなってしまうのと同義ではないか、と。
「一真……君はどうだい?」
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