序章 復讐の火付け

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「なぁ、お前さん」その時を破ったのは、玄武の一言だった。少年は憎悪に満ちた瞳で振り返る。刃物で刺すようなその視線を玄武はもう、何度も見たことがあったのだろう。その視線を払いのけることもなく真っ直ぐに見返し、そして問う。 「こちら側に来るか?」  ぴくりと少年の顔が引き攣った。 「お前さんには素質もある。鍛錬を積めば、そうだなぁ。俺の次位には強くなれるかもしれない。それにその傷も自身の力で封じる事が出来る」  いつの間に貼ったのか、少年の胸の火傷の上には霊符があった。先程の痛みが嘘のように収まっていた。だが、これは玄武の言う通り、単に封じただけに過ぎないのだろう。未だ、体の中であの熱が往生際悪く、蠢いているのが分かった。この痛みを完全に取り除く事が出来るのならばと思う――が、 「お前らの仲間になれって? 死んだってごめんだ」  これには玄武も苦笑した。 「おいおい。そうは言ってない。別に無理に俺達“陰陽師”の側につく必要なんてないさ」 「おんみょーじ?」ぽかんと少年は鸚鵡返しに聞く。怒りも殺気も抜けてないが、それは年相応の少年らしい反応に見えた。 「そう。俺達は陰陽師だ」 「俺も陰陽師になれば、あの化け物みたいなのと戦えるってのか?」 「それはお前次第だ。死んでも嫌なんだろ? だったら、好きにすればいい」  底意地の悪い混ぜっ返しだった。だが、少年の反骨的な気質もまた、底が無い。 「だったら、俺は俺のやり方でその陰陽師ってのになる。お前らの力なんて借りない」  轟っと燃える炎を心に少年は宣言した。そして密かに誓った。 ――自分だけを生かすような真似をしたこいつらに復讐してやる、と。 「その志あっぱれ、見事也。少年、名前は?」 「晃……大江晃だ」  こうして、少年は生き残った。それが大きな運命の渦に一石を投じる結果になろうとは、勿論今の彼には知る由も無かった。
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