71人が本棚に入れています
本棚に追加
/418ページ
「なぁ、お前さん」その時を破ったのは、玄武の一言だった。少年は憎悪に満ちた瞳で振り返る。刃物で刺すようなその視線を玄武はもう、何度も見たことがあったのだろう。その視線を払いのけることもなく真っ直ぐに見返し、そして問う。
「こちら側に来るか?」
ぴくりと少年の顔が引き攣った。
「お前さんには素質もある。鍛錬を積めば、そうだなぁ。俺の次位には強くなれるかもしれない。それにその傷も自身の力で封じる事が出来る」
いつの間に貼ったのか、少年の胸の火傷の上には霊符があった。先程の痛みが嘘のように収まっていた。だが、これは玄武の言う通り、単に封じただけに過ぎないのだろう。未だ、体の中であの熱が往生際悪く、蠢いているのが分かった。この痛みを完全に取り除く事が出来るのならばと思う――が、
「お前らの仲間になれって? 死んだってごめんだ」
これには玄武も苦笑した。
「おいおい。そうは言ってない。別に無理に俺達“陰陽師”の側につく必要なんてないさ」
「おんみょーじ?」ぽかんと少年は鸚鵡返しに聞く。怒りも殺気も抜けてないが、それは年相応の少年らしい反応に見えた。
「そう。俺達は陰陽師だ」
「俺も陰陽師になれば、あの化け物みたいなのと戦えるってのか?」
「それはお前次第だ。死んでも嫌なんだろ? だったら、好きにすればいい」
底意地の悪い混ぜっ返しだった。だが、少年の反骨的な気質もまた、底が無い。
「だったら、俺は俺のやり方でその陰陽師ってのになる。お前らの力なんて借りない」
轟っと燃える炎を心に少年は宣言した。そして密かに誓った。
――自分だけを生かすような真似をしたこいつらに復讐してやる、と。
「その志あっぱれ、見事也。少年、名前は?」
「晃……大江晃だ」
こうして、少年は生き残った。それが大きな運命の渦に一石を投じる結果になろうとは、勿論今の彼には知る由も無かった。
最初のコメントを投稿しよう!