第一章 出会いの日

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†††  いにしえの時代から現代に至るまで、数多(あまた)の修行者たちに愛されてきた「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」の里・下北山村。そこに広がる様々な「霊域」と美しい「遊歩道」、「行者道(ぎょうじゃみち)」修験道の祖とされる役行者が7世紀後半に開いたとされていて、ほとんどが1000~1900mの険しい峰々を越える「尾根道」。 これを一週間かけて踏破する「奥駈(おくがけ)」は修験道では最も重視される修行で、山中には今でも75ヵ所の「靡(なびき)」と呼ばれる行や礼拝のための場所が残されている。 ――と、ここまでが観光ガイドに載った知識。この地における修行者達が実際の所、どんな鍛錬を積んでいるかまでは載っていないのが普通だ。険しい山道を登る。それも確かに、修行者達の修行の一環ではある。ただし、それが何故険しいのかというと地理的な問題だけではない。彼らはここに出るという“鬼”を相手取りながら、頂上に達しなければならない。五鬼助(ごきじょ)、五鬼継(ごきつぐ)、五鬼上(ごきじょう)、五鬼童(ごきどう)、五鬼熊(ごきくま)の五人。いずれも修行者に対しては相当厳しいが、殺しはしない。  試練として立ち塞がるだけだ。  その五人が住処とするのが、前鬼の里だった。観光客も訪れる所だが、五人の鬼達は決して見つかる事はない。一般的な人間達とは住む世界が違うからだ。  陰の界――人間達が棲む形のある物が存在する世界の裏側、形無き物が存在する世界の住人だった。  その前鬼の里に住むのは、鬼達だけではない。彼らを監督するというある“法師”がいた。  そして、ごく稀ではあるが、本当に強さを求める者は、しばしばこの鬼達と共に暮らす。
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