act.2

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我先に近寄り楽しげに会話を交わしながら二階席へと向かって行く彼らを見送り、ヴェルサスは困惑していた。 それは、たった今やって来た生徒──伍条愛美(ごじょうまなみ)のことだ。 彼の容姿はいわゆるアフロのようなもじゃもじゃ髪に、ぐるぐるのビン底眼鏡。 生徒会の役員たちの容姿から、彼らの中に天使がおり、そんな彼らが慕う少年が〈天使憑き〉であるのはほぼ間違いない。だが肝心の少年の容姿がお世辞にも良いとは言えないのは──どういうわけだろうか。 〈天使憑き〉の絶対的な条件として、容姿が優れているというのが挙げられる。 容貌が美しい者を“神に愛されたような”と言うことがあるが、それは違う。愛されたから美しいのではなく、美しいから愛されるのだ。俗っぽく言えば、天使は面食い(・・・)なのである。 事実、過去の〈天使憑き〉は皆人並み外れて美しい者ばかりだった。最も、天使たちはそれを認めはしないだろうが。 さて。そうだとすると、伍条愛美は例外なのか、それともそもそも〈天使憑き〉ではないのか。──いや。 (変装、か…?) 彼の顔は長い前髪と大きな眼鏡に邪魔されよく見えない。あのあまり清潔ではなさそうな格好が変装でその下は実は整っているのだとしたら、疑問はなくなる。 それを後押しするのが周囲の様子だ。念のため反応を探れば微笑ましそうだったり祝福していたりと、決して悪いものではない。むしろかなり好意的だ。 この学園は環境上、顔立ちの整っている者を過剰に敬い、反対にそうでない者を厭う傾向にある。それを踏まえると、五條愛美に対する態度は異常なのだ。 だが彼が〈天使憑き〉であるなら、それは当然のことだ。 〈天使憑き〉──その最も重要な特性は、“全ての人間に愛される”というもの。つまり、伍条愛美が本来なら学園中の生徒から非難される立場でありながらそうならないのは、彼が〈天使憑き〉だからというわけだ。 (しかし、この状況は──) その時だった。 一瞬。そう、本当に一瞬。 二階席へ続く階段下に辿り着いていた生徒会長が、僅かに振り返った。 恐らく他の者は気づかなかっただろう。瞬き程の間に、彼の姿は既に二階へと消えてしまった。 だが確かに、彼はこちらを見て──微かに嗤ったのだ。 (──…) ──篝夜斗。 朧げに、ほんの少しだけ感じた気配、あれは。 「まさか──?」 image=481906941.jpg
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