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愛美は彼のためだけに用意された菓子を貪る。ぼろぼろと零れた欠片が上質なソファや絨毯の上に落ちた。
その様子を役員たちはうっとりと熱に浮かれた眼差しで見つめ、我先にと話しかける。
「愛ちゃん愛ちゃんっ!おれもう、セフレいないんだよぉ。愛ちゃんだけだから、他はみんな切ったんだぁ」
「ああ!偉いな黄太!セフレなんて空しいだけだもんなっ!」
「私の笑顔は貴方だけのものです」
「漣の笑顔はほんとにキレイだよな!」
「……愛美、好き」
「俺はお前の言葉ちゃんと分かるぞ、幹夫!」
「「ぼくらのことを見分けられるの、愛美だけだよ」」
「だってお前ら全然違うじゃんっ!」
そうやって愛美と言葉を交わし、皆幸福そうに顔を緩める。
向かいのソファからそれらを眺めていた夜斗は、くっと口角を上げた。
「ほんと愛美は、面白いな」
役員たちにちやほやされていた愛実がその言葉を聞きつけ、身体を乗り出して食ってかかる。
「なんだよそれっ!夜斗なんか、初めて会ったとき、ききききす…してきたくせにっ!!」
「はっ…何言ってんだよ、あの程度で」
さらりと躱した夜斗は、乗り出していた愛美の顎を捉え顔を間近に近づけると、
「──唇は外してやっただろ?」
そう、囁いた。
「…~ななな、なにっ…!!」
長い前髪の下からもはっきり分かる程顔を真っ赤にした愛実は、勢い良く後ずさった。
「や、夜斗っ!」
「ははっ、そう照れるなよ。俺とお前の仲だろ?」
「なな仲って…俺はっ…!」
色気を含んだ眼差しを向けられ愛美は狼狽える。だが、その表情は決して嫌がっているようではない。
「ちょっと篝、何をしているんですか!」
「愛ちゃんに触らないでよ~!」
「……触る、だめ…!」
「「会長に触ると妊娠しちゃうー!」」
我に返った役員たちが慌てて二人の間に割って入った。しかし愛美は相変わらずどこかぼんやりした顔で夜斗を見つめている。
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