act.3

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屋上──生徒会棟にある屋上庭園とは違いここは一般解放されている──の金網の向こうに、一人の生徒が立っている。 ぼんやりと下を見つめるその瞳はどこか虚ろだ。 「もう…疲れた」 ぽつりと呟かれた言葉。 ゆっくりと足を踏み出し──彼は、空中へと投げ出された。 急速に落下していく身体。 あと少しで地面に叩き付けられる──という時、不意に出現した闇の霧のようなものから人影が現れ、落ちてきたそれを受け止めた。 横抱きにした身体がくったりと力を失くす。 そのまま、重力を感じさせない動きでふわりと着地した。 (危なかったな) この生徒は、編入生伍条愛美の同室者だ。 そのために巻き込まれ、天使の加護を受けている愛美の代わりに親衛隊の制裁などを受けていた。 例の予言書(・・・)にも「平凡巻き込まれ君」などと描かれており、注意していたのだ。 何故ならば──彼の死こそが、〈禍〉の始まりとなるからだ。 本来伍条愛美に向かうべき憎悪の全てを代わりに負っていた少年が自ら命を絶つことで、生徒たちの負の感情は行き場を失う。 これが学園崩壊のきっかけとなるのだ。 彼の死によって歯止めを失くした生徒たちは暴走し、多数の自殺や殺人を引き起こしていくのである。 この少年の自殺を阻止したことで、ひとまず危険な事態は避けられたはずだ。 彼をここに放っていくわけにもいかないだろう。 腕の中の意識を失っている身体を見下ろし、とりあえず保健室へ向かうことにした。 image=482887198.jpg
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