act.1

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「…あーったく、めんどくせぇなあ…」 妻夫木奏(つまぶきそう)はため息を吐き、ぼりぼりと頭を掻いた。胸元を大きく開けたスーツに首を飾る金鎖とまるでホストのような格好だが、その男前な容姿から学園で大人気の教師だ。Ⅰ- Sの担任で、同時に生徒会の顧問を兼任している。 「早く愛美に会いてぇってのに…」 未だぶつぶつとぼやきながら、妻夫木は教室の扉を開けた。その途端いつものように教室中から歓声が沸き起こる。特に可愛らしい容姿をした生徒たちからかなり過激な内容の言葉が上がったが、以前なら逐一チェックしていたであろうそれらの言葉を完全に無視し、妻夫木は教卓を叩いて注意を促した。 「おら、静かにしろ!今日は転校生を紹介するぞ」 ざわざわと再び教室中が騒がしくなった。何しろ、初等部から大学部まで通うのが普通のこの学園では、転校生というのはかなり珍しい。それも、五月という時期に二度目(・・・)とあっては、否応無しに期待は高まるというものだ。 「よし、入ってこい!」 がらりと開いた扉の向こうに、ある者は興味津々に、またある者は嘲り混じりに、一斉に視線を集中させた。 そして、現れた姿に──その誰もが、息を飲んだ。 透き通るような銀髪。ピジョンブラッドの瞳。すらりと伸びた手足は長く、有名デザイナーが手がけた学園の制服に包まれた身体は細いが決して頼りなくはない。 何よりも、その容姿の美しさ。綺麗ではあるが女っぽいというわけではなく、むしろ男らしい。道行く誰もが振り返り、間違いなく美しいと断言するだろう。だが到底言葉で言い表すことのできない“美”は、まるで、そう、人間のものではないような── 「……綺麗」 誰かが、ぽつりと呟いた。 「───ヴェルサス・ウィータ」 響いた声は優美な旋律のようだった。 囁くようなそれが彼の名前だとようやく気がついた時には、その姿はもう窓際の席にあった。 朝の、HRの時間。Ⅰ- Sの教室だけは周囲の喧噪から遠ざかったかのように、しんと静まり返っていた。
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